万博グルメ食べ歩き
夢洲は、屋根のある世界食堂だった。
食道楽の街・大阪で味わった、一日分の世界一周。
「万博って、結局なに食べるの?」会場に向かう電車の中で、何度この質問を投げかけられたか分からない。答えはシンプル。「世界中、なんでも」。158カ国が集まった夢洲は、屋根の下に世界の食堂を全部詰め込んだような場所だった。フードコートの湯気、パビリオン併設レストランの本気、キッチンカーから漂うスパイスの香り、そして救世主だった会場内のコンビニ。食道楽の街・大阪で味わった、一日分の世界一周を記録する。
夢洲は、屋根のある世界食堂だった。
会場に着いて最初に驚いたのは、食の選択肢の多さだった。フードコート、パビリオン併設レストラン、屋台、キッチンカー、そしてコンビニ。一日では到底回りきれない規模で、夢洲そのものが一つの巨大な世界食堂のように機能していた。
迷うのが正解の場所、というのが正直な感想だ。何を食べるかを決めて来るより、歩いて気になったものに並ぶ方が、たぶん満足度は高い。
国の建物の中で、
国の味を食べる。
パビリオン併設レストランの一番の魅力は、「その国に入って、その国の味を食べる」という没入感だ。
セルビアパビリオンのレストランでは、壁面アートと木の質感に包まれた店内で、現地スタッフが手がける料理とドリンクを味わうことができた。バルカン半島の食文化を、建築ごと体験できる空間。来場者の間では、知る人ぞ知る人気スポットの一つになっていた。
マレーシア館の「MAKAN MAKAN MENU」、ブルンジ館のスペシャルティコーヒー&カヌバパフェ、台湾館の物販コーナーに並ぶ神農生活の調味料たち。建築・展示・食、その三つが一つの体験として繋がっていることに気づく。
ナンを片手に大屋根リングを見上げたとき、これは旅行じゃない、移動だ、と思った。たった一日で、何カ国分の空気を吸ったのだろう。
キッチンカーが描く、
移動式の世界地図。
大屋根リングの下、広場の角、パビリオンの裏手。会場の至るところにキッチンカーが配置されていて、歩いていると「次は何の匂いだ?」というゲームになる。
トルコ式ドネルケバブの店では、回転する肉柱の前で、店主が大きなナイフで器用に薄切りを削り落としていた。隣に置かれた小さなトルコ国旗と、湯気の向こうで笑うスタッフの顔。これだけで、もう旅の写真として成立する。
パキスタン・バングラデシュ系のキッチンでは、「サムライカレー」と銘打ったメニューと一緒に、680円の本格マサラチャイ・ラッシーが並ぶ。スパイスの効いた香りと、奥の厨房でナンを伸ばす手の動き。料理が「現地の本気で調理」されていることが、看板を見なくても分かる。
夢洲の主要フードコート、
それぞれの顔。
会場には、個性の異なる大型フードコート・飲食エリアが主要4箇所点在していて、それぞれが明確に別の方向を向いていた。個別出店の店舗まで含めれば、会場全体で100店舗を超える飲食スポットが展開されていた計算になる。
■ 大阪のれんめぐり 〜食と祭EXPO〜(西ゲート側)
会場最大規模、約1,000席を誇るサスティナブルフードコート。「たこ家道頓堀くくる」「串かつだるま」をはじめ、大阪を代表する名店12店舗が集結したエリア。万博に来たのに、結局たこ焼きと串カツの行列に並んでしまうという「大阪あるある」が、ここで現実になる。
■ リングサイドマーケットプレイス(東・西)
大屋根リングの真下、東西2エリアに展開する飲食ゾーン。日本食、エスニック、本格パキスタン・インド料理まで、ここで世界一周ができる国際色の濃さ。リングの影で日陰になっている席は、夏場の救世主だった。
■ 好きやねん大阪フードコート EAST SIDE(ウォータープラザ東側)
水辺の景色を眺めながら食事ができる、総座席数約550〜600席の大型フードコート。家族連れの利用率が高く、ベビーカー同伴でも入りやすい雰囲気。風通しがよく、夕方の景色も最高だった。
■ QBB これもいいキッチン(東ゲート側)
植物性素材(プラントベース)のみで構成された、サステナブルメニュー専門のフードコート。「肉に見えるけど肉じゃない」料理が並び、ヴィーガン来場者の駆け込み寺になっていた。万博らしい「未来の食」の体験スポット。
巨大フードコートには「5か国の食事」と銘打ったカウンターもあり、トルコ、イタリア、インド、バングラデシュ、日本の料理が、生演奏と共に一つの空間で食べられた。「ご自由にお出入り大丈夫です」という案内が、なんとも万博らしい。
海鮮丼、うどんの冷温メニュー、回転寿司「くら寿司」。日本食もしっかり布陣されていて、外国からの来場者にとっては、これ自体が「日本パビリオン」のように機能しているようにも見えた。
朝はコーヒーと軽食、昼は世界各国の主食でガッツリ、夜は屋台でビールと粉物。一日のうちに会場の食の表情が三度変わる。
行列の長さも一つの情報源だ。列が異常に長い店は、たいていの場合、間違いなく美味しい。逆に列がほぼゼロのカウンターには、思いがけない当たりが潜んでいたりする。これも食べ歩きの楽しみのうち。
イベント連動グルメ —
文化と一緒に飲み食いする。
ドイツパビリオンで提供されていた本場のビールは、会場でも屈指の人気を誇っていた。一杯1,500円。万博価格として正直高い。でも、注がれた瞬間にグラスから立ち上がる白い泡と、芯までキンと冷えた本場の味は、「これが本物か」と納得させてくれる満足度だった。同じパビリオンで出されていたドイツソーセージも絶品で、こちらも常時長い列ができていた。プレッツェルと合わせれば、夢洲が一瞬ミュンヘンの広場になる。
ペルー・ナショナルデーの日にはインカコーラがあちこちで売られ、台湾フェスティバルの時にはタピオカや小籠包の屋台が増える。文化と食が同時に「移動してくる」感覚は、万博でしか味わえない。
ナショナルデーの式典帰りに、その国の料理を食べる。これがたぶん、いちばん満足度の高い一日の組み立て方だ。
さすが、食道楽の街・大阪。
158カ国が集まる場所で、各国の料理が当たり前のように並び、ハラルやヴィーガンへの配慮も静かに整っていて、コンビニまでがちゃんと「便利」を貫いていた。これだけ大量の食を、これだけのスピードで、これだけ多様な来場者に提供しきった会場運営は、率直にすごい。
そしてそれを支えたのは、間違いなく大阪という街が持っている食のインフラと、現場で働く人たちの底力だった。粉物の街、出汁の街、世界中の食材が集まる街。万博が終わっても、この「食でもてなす」DNAは、街のあちこちで生き続ける。
またあの大屋根の下で、次は別の国の料理を食べたい。そう思いながら、ゲートを抜けた。
追加フォトギャラリー
記事本編で紹介しきれなかった、万博グルメの記憶たち。メニュー写真、屋台の風景、食べ歩きの途中で目に留まった瞬間。タップまたはクリックで拡大表示できます。